パンダ・シェパードとKIT遺伝子


ジャーマン・シェパード・ドッグの毛色(非公認)の中に、トライカラーやブラック&ホワイトなどがあります。ホワイトが身体全体を占める面積は35%程度で、これらは「パンダ・シェパード」と呼ばれます。しかし、一般的なパンダ・シェパードは他の犬種と同じようなS遺伝子によってホワイトが入るわけではありません。その遺伝子とパンダ・シェパードの歴史などについて紹介します。

ブラック&ホワイトのパンダ・シェパード

■KIT遺伝子

KIT遺伝子は常染色体優性遺伝で、1つでもコピーを持っていれば白斑になります。一方、KIT遺伝子の変異を2つ持つと胎生致死となります。

KIT遺伝子による白斑は、前頭部、マズル、胸、腹、カラー、尾の先に入ります。前頭部の白斑はない場合や細い場合(普通のブレーズのような場合)やいわゆるハーフホワイトフェイスの場合もありますが、個体によってはストップあたりより上から白斑の幅が広くなることもあります。

■パンダ・シェパード

2000年にAKCに登録されたジャーマン・シェパード・ドッグとドイツのジャーマン・シェパード・クラブに登録されたジャーマン・シェパード・ドッグの間に子犬が生まれ、1頭がブラック&タンに白斑のある毛色で両目が青色でした。両親の毛色は母犬がブラック、父犬がブラック&タンでした。また、同腹子やその後3回行われた同じ両親犬の組み合わせの交配で生まれた子犬たちは皆ブラック&タンの毛色でした。白斑のある毛色の子犬はフランカと名付けられ、フランカのブリーダーはカリフォルニア大学デービス校(オハイオ州立大学動物病院という情報もあります)にDNAテストをしてもらい、フランカが純血種のジャーマン・シェパード・ドッグであることが分かりました。フランカはその後4頭の子犬を生み、3頭が白斑のある毛色で残りの1頭はブラック&タンでした。しかし、白斑のある毛色の子犬たちは青い目はしていませんでした。そして、35%の面積の白斑のある毛色のジャーマン・シェパード・ドッグをパンダ・シェパードと呼ぶようになりました。

純血種のジャーマン・シェパード・ドッグならば、他の変異がない限りパイボールドやほとんどホワイトといった毛色になることはありません。そのためパンダ・シェパードにおける白斑の入り方は、顔の模様以外はどの個体も似ています。白斑以外の毛色は様々で、ブラック&タン、ウルフグレー、オールブラックなどがあります。

■パンダ・シェパードの健康問題

例えばハルクイン(H遺伝子)や優性遺伝のヘアレスのようにホモ接合で胎生致死になる毛色、毛質遺伝子は他にもあります。ハルクインについては半致死遺伝子と呼ばれるマール遺伝子を持っていることが発現の条件(ハルクインはマールの修飾因子)なので、単体での影響は不明ですが、優性遺伝のヘアレスにおいては欠歯などの健康上の問題が知られています。しかし、KIT遺伝子においては今のところ目立った障害などはなさそうです。パンダ・シェパードは少なくとも日本にはほぼ存在しないと考えて良さそうですし、マールなどと比べて歴史が浅く頭数も少ないと考えられます。現在はまだこれからの研究を待つ段階なのかもしれませんので、KIT遺伝子を持っていても持っていない場合と健康的には何ら変わらないと考えるのは早すぎると思いますが、もしパンダ・シェパードを飼っている場合や飼おうとしている場合でもある程度は安心して良いと思います。ここからは私の推測ですが、どちらかというと現在気をつけるべきなのは近親交配やブリーダーの飼育状態だと思います。KIT遺伝子は優性遺伝なので劣性遺伝の形質を発現させるよりは簡単だと思いますが、まだ頭数も少なく最初の個体であるフランカも突然変異が起こったためだと考えられるので祖先を遡ればどのパンダ・シェパードもフランカに行きつきます。もちろん現在生まれてくる子犬とフランカの間に1,2代しかいないことはないと思いますが、やはりある形質を多くの犬に取り入れようとすると同じ犬(特にオス犬)を何度も繁殖に使う必要があるためどうしても同じ遺伝子を共有する犬が多くなると考えられます。これはチャンピオン犬についてもよく言われることです。また、全員ではありませんが、ブリーダーによってはパンダ・シェパードの珍しさやブームに乗って犬の健康などを繁殖する人もいるので注意が必要です。

また、毛色は違いますが純血種のジャーマン・シェパード・ドッグと言われており(コリーなど他の犬種との掛け合わせであると主張する人もいるそうですが)、現在も普通の毛色のジャーマン・シェパード・ドッグとの交配も行われているはずです。そのため、ジャーマン・シェパード・ドッグに多い股関節形成不全などの遺伝病がないことを確認することも大切です。

■まとめ

パンダ・シェパードとその白斑の原因となるKIT遺伝子について紹介しました。パンダ・シェパードは見た目はアイリッシュ・スポッティングのあるボーダー・コリーなどの毛色に似ていますが、よく見ると場合によっては白斑のつき方にも違いがあります。また、一般的な白斑の遺伝子であるS遺伝子とは遺伝の仕方も異なり、優性遺伝でホモ接合では胎生致死であることも特徴です。昔からある遺伝子ではなくおそらくフランカ1頭の突然変異から始まったまだ新しい毛色であることも興味深いですね。

トライカラーのパンダ・シェパード