グレート・デーンには様々な毛色がありますが、他の犬種にはない毛色や繁殖の規定があります。毛色の種類と遺伝子、繁殖の規定の意味を紹介します。
■グレート・デーンの毛色の種類
JKCのサイトによると、グレート・デーンの毛色は以下の5つです。
・フォーン
・ブリンドル
・ホワイトにブラックの斑(ハールクイン)
・ブラック
・ブルー
一般的に言われているグレート・デーンの毛色に、「マントル」がありますが、これは上の区分では「ブラック」に含まれるようです。
■グレート・デーンの毛色のバラエティーと繁殖の規定
JKCのサイトによると、グレート・デーンの繁殖は3つの異なるバラエティーごとにされるようです。
・フォーン&ブリンドル
・ハールクイン&ブラック
・ブルー
また、JKCの繁殖規定は以下の通りです。
a)ハルクイン同士の交配は避けてください。高い確率で致死や、難聴のような健康欠陥が生じるためです。
b)ハルクインと、ブラック以外の毛色との交配は避けてください。ハルクインは、ブラックに、ハルクインとマール遺伝子によって生じた過度のホワイトを伴った毛色であるためです。
c)ブルーと、ブルーまたはブラック以外の毛色との交配は、避けてください。ブルーは鼻や目の色を薄める劣性対立遺伝子によって生じた、ブラックが薄まった毛色であるためです。
ジャパンケネルクラブ 「バラエティー間交配に関するガイドライン」より引用https://www.jkc.or.jp/certificates_and_breeding/guidelines/variety_mating
■繁殖の規定の意味
これらのバラエティーや規定には意味があります。それぞれ推奨されない、もしくは禁忌とされる交配の理由を紹介します。
・ハールクイン同士の交配
これは、マール同士の交配が禁忌とされるのと同じ理由です。ハールクインの個体はマールの遺伝子も持つため、ハールクインの個体同士を交配することは、マールの個体同士を交配するのと同様にダブルマールの個体を生む可能性があるからです。また、ハールクインの個体同士を掛け合わせるとH遺伝子がホモ接合となり、胎生致死となる可能性もあります。胎生致死の場合、倫理的問題があるかは不明ですが、生まれてくる子犬の数が減るため、ブリーダーにとってもメリットにはならないでしょう。
ちなみに、ハールクイン同士の交配をした場合の子犬の毛色は、
ハールクイン33.3%、マール16.7%、ダブルマール8.3%、ダブルマールハールクイン16.7%、ブラック41.7%となります。(小数第2位を四捨五入)
となり、さらに胎生致死が約25%いるため、通常の約75%の子犬の数になります。しかも、これらの割合は確率的なものなので、子犬が全頭胎生致死であったり、ダブルマールであったりする可能性もあります。(もちろんすべてハールクインやブラックの場合もあります。)生まれた子犬の中で、JKCのスタンダードに当てはまるのは約75%です。(ダブルマールハールクインは全身がホワイトに近くなることも多いため、スタンダード外としてカウントします。)
これらのことを考えると子犬の障害などのリスクを負ってまでハールクイン同士の交配をする必要はないでしょう。
・ハールクインとブラック以外の毛色
ハールクイン同士の交配が禁忌であるのとは違い、ハールクインがフォーン、ブリンドル、ブルーと交配してはいけないのは健康上の問題や、胎生致死が原因ではありません。ハールクインとこれらの毛色を交配すると、フォーンクイン、ブリンドルクイン、ブルークイン(ポーセレン)といった、スタンダード外の毛色の個体が生まれる可能性があるからです。また、ハールクインの個体はマール遺伝子を持っているため、フォーンマールやブリンドルマールなどの個体が生まれる可能性があり、これらの毛色はフォーンやブリンドルと見分けがつきにくいことがあります。グレート・デーンにおいてブラックマスクは一般的ですが、クリプティックマールなどの可能性を考慮すると避ける方が次世代の交配を考えても賢明でしょう。
・ブルーとブルー、ブラック以外の毛色
こちらも健康上の問題や胎生致死が原因ではありません。ハールクインについては説明したので割愛しますが、ブルーとフォーン、ブリンドルを交配すると、ブルーフォーン、ブルーブリンドルといったスタンダード外の毛色の個体が生まれる可能性があります。ブルーとブラックのみで何代も繁殖されてきたブルーの個体をフォーン、ブリンドルと交配しても、遺伝学にはブラックのみしか生まれません。しかし、遺伝学的に解明はされていないものの、シールなど赤みがかった毛色の個体が生まれると考えられます。(シールはフォーンの遺伝子を持つブラックの個体(遺伝型はKBkyAyAy)に発現するという説が一般的です。)シールがドッグショー等で認められるかは不明ですが、スタンダードには「漆黒」とあるのであまり好まれないでしょう。また、二代目以降の繁殖時にスタンダード外の毛色の個体が生まれる可能性もあります。
・ブラックとフォーン、ブリンドルの交配
この交配は、上記のガイドラインには書かれていませんが、バラエティー間の交配となるため、推奨されているわけではありません。フォーンもブリンドルも因子はブラックなので、一見問題はなさそうですが、やはりスタンダード外の毛色を生み出す原因にもなります。
ブラックとフォーン、ブリンドルを交配すると、シールやシールブリンドルというった毛色の個体が生まれる可能性があります。また、ブラックという毛色だけで判断すると、ブルー因子を持つブラックである可能性を考慮できず、ブルーの遺伝子がフォーンやブリンドルのラインに紛れてしまったり、スタンダード外の毛色の子犬が生まれる可能性があります。さらに、ホワイト因子を持つブラックの個体を掛け合わせると、ホワイトマーキングスを持つフォーンやブリンドルの個体が生まれることにつながります。グレート・デーンにおいてホワイトマーキングスが認められているのはブラックとブルーのみですので、これもあまり好まれないでしょう。健康上問題はありませんが、特別な理由なしに繁殖するメリットはなさそうです。
■規定の矛盾
繁殖の規定の意味について説明してきましたが、この規定には遺伝学的に見ると矛盾があります。
・ブラック(マントル)の交配
これは上記の交配にも当てはまりますが、ホワイトマーキングスを持つ個体はマントル遺伝子のキャリア(不完全優性のため)であることが考えられます。また、マントルの個体はスタンダード内の毛色であるため、ラインから排除されません。ブラックまたはブルーとの交配が推奨されるブルーにホワイトマーキングスが認められているのは合理的なことだと思いますが、ブラックとブラック&ホワイト(マントル)を「ブラック」としてひとまとめにしてしまっているがために、マントルが積極的にブルーとの交配に使われる可能性もあります。ブルーのラインにホワイトの遺伝子が多く入ってこれば、ブルー&ホワイト(ブルーマントル)というスタンダード外の個体を生む可能性があります。
・マールの交配
マールはJKCにおいてはスタンダード外の毛色とされています。しかし、ハールクインの交配の際にはほぼ必ず生まれてくる毛色でもあります。マールの個体を販売したり、格安で譲ったりするブリーダーもいますが、繁殖に使ってはいけないという規定はなく、また使っても問題はありません。特に、ハールクインの子犬が欲しいが、ハールクインではなくハールクイン因子を持つブラックしかいない場合、ハールクインとハールクイン因子を持つブラックがいるが、倫理的問題があると考える場合、それによって子犬の数が減るのを避けたい場合に交配に使うという方法があります。この場合、ハールクインとハールクイン因子を持たないブラックを交配した場合と生まれる子犬の毛色の割合は同じです。また、遺伝子検査をするのが最も良い方法であり、この目的で繁殖に使うのは非倫理的だとは思いますが、ブラックの個体がハールクイン因子を持っているかわからない場合、マールの個体を掛けることで調べることができます。もちろん、そもそも子犬の頭数が少なかったり、ブラックの個体がハールクイン因子を持たなかったりする場合には確証は得られません。
これらのマールを使った交配を行っているブリーダーは日本にはあまりいないと思われますが、マールに関する規定がないのは危険だともいえます。マール同士の交配をしてはいけないことは、現在のブリーダーの中では常識と言えるでしょう。しかし、ハールクインとマールの交配をしてはいけないことを知っているブリーダーは少ないでしょう。(現在は不明ですが、少なくとも数年前まではハールクイン同士の交配も普通に行われていました。)そもそもハールクインはスタンダード内の毛色であるにも関わらず、ハールクインを生み出す際に生まれてくるマールはスタンダード外の毛色であること自体が不思議な話ですが、スタンダード外とはいえグレート・デーンの繁殖において避けては通れないマールについての規定がないことは良いことではないでしょう。
・ブルー
ブルーは単体でバラエティーを構成しています。劣性遺伝子のブルーはフォーンやブリンドルのラインに紛れ込むと排除しにくく、ブルーが発現するスタンダード内の毛色はソリッドブルーのみだからでしょう。ハールクインとブラックのバラエティーに統合できないのはブルーマントルがスタンダード外の毛色だからだと考えられます。同時にブルーハールクインという可能性を除外できないということも原因です。
しかし、上記のガイドラインでは、ブルーとブラックの交配は許可されています。不完全優性のホワイトスポッティングの影響で、ホワイトマーキングスが現れるため分かりやすく、これはスタンダードで認められているため許可されているのかもしれません。このような考えが背景にあるならば、ブルーをハールクインとブラックのバラエティーに統合するのは不可能ではないと考えられます。そもそもブルーと交配した先祖のいるブラックをハールクインと交配するならば、ブルーがハールクインとブラックのバラエティーに入っているも同然で、そのリスクは上記のガイドラインに沿っている場合と同じです。日本において珍しいブルー同士の交配を何世代も続けることは限界があるでしょうし、遺伝子プールが狭まることを考えれば、ブラックと交配するのは間違ったことではないでしょう。もしも可能ならば、ハールクイン因子を持たないことが分かっているブラックを定期的に掛け合わせるのが賢明でしょう。ハールクイン因子を持つかどうかは見た目では判断できず、何代も前までさかのぼることができて明らかな場合を除き、遺伝子検査をするか、交配を重ねてからでないと分からないため、ブラックの同じ個体をハールクイン、ブルーそれぞれのラインに導入するのは簡単ではないでしょう。考えられる最も合理的なバラエティーは、ハールクインラインのブラックとブルーラインのブラックに分けることでしょう。
■繁殖の現状
日本において近年までハールクイン同士の交配が頻繁に行われていたのは事実です。マールに関する知識はどのブリーダーや飼い主においても有名で、グレート・デーンのブリーダーの間でバラエティー間の交配が推奨されていないことはかなり知られているように思います。その証拠に、ハールクインを繁殖しているブリーダーはフォーンやブリンドルはほぼ繁殖しておらず、その逆もまた正しいです。もちろん多くの毛色を繁殖しているブリーダーもいますが、超大型犬というグレート・デーンの特徴も相まってか、悪徳ブリーダーがターゲットとする犬種でもなく、たくさんの個体を所有すること自体難しいのだと考えられ、マール以外のスタンダード外の毛色をむやみやたらに繁殖したり、レアカラーとうたって販売していることはなさそうです。
■まとめ
グレート・デーンの毛色と繁殖について紹介しました。グレート・デーンは繁殖の規定が細かく厳しいことが知られていますがその意味を理解している人は少ないでしょう。健康上の問題がある交配とスタンダード外の毛色を生み出す交配の両方があるからです。また、ハールクインというグレート・デーン特有で遺伝的にもマールとの関連性を持つ毛色が存在することもその一因です。毛色ごと、バラエティーごとの交配はスタンダード外の毛色の個体を減らすことには効果的ですが、遺伝子プールが狭くなったり、良い血統の犬を導入しにくくなったりするデメリットもあります。この規定を鵜呑みにするのもまた良くないことになり、個人的には結局そもそもスタンダード内の毛色が少なく、遺伝学を考慮していないものである、という意見に行き着くのですが、他国でも同じようなスタンダードが採用され(AKCにおいてはマールが公認されています)、現在の常識である以上スタンダードそのものに変更を求めるのは難しいでしょう。グレート・デーンの繁殖が規定を理解した上で行われることを願っています。