ミックス犬と遺伝性疾患についての記事を見つけましたので、これについて書いていきたいと思います。以下に記事のリンクを貼りますが、内容は全て同じです。
2023年6月27日の記事です。記事が削除される場合があります。ご了承ください。
遺伝性疾患だらけ「ミックス犬姉妹」背負った運命 人気犬種ランキング入りも、悪徳業者が絶えず | ペット | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)
遺伝性疾患だらけ「ミックス犬姉妹」背負った運命 – ライブドアニュース (livedoor.com)
要約を示します。(以下の要約は記事を読んで私が独自に作成したものです。)
保護犬だったミックス犬の姉妹が成長するにつれて命に関わるものを含む多くの遺伝性疾患を持っていることが分かり、両親の犬種に好発するものも多かった。悪徳ブリーダーは遺伝性疾患から目をそらし、ミックス犬だからと言って遺伝子検査をせず、人気があるからと乱繁殖を続けている。中には珍しいからと大型犬と小型犬のミックスを生ませるブリーダーもいる。欧米ではハイブリッド犬種は厳しいスタンダードが設けられ、遺伝病をなくす努力がなされている。ブリーダーは健康な子犬を生み出すことを重要視すべきであり、購入する側も正しい知識を持つべきである。
この記事を読んでどう思われたでしょうか。
ミックス犬には遺伝性疾患が少ないと思っていたため驚いた、やはり悪徳ブリーダーによる繁殖にはリスクが伴うのだと納得した、など様々だと思います。
私はこの記事を読んで、納得する部分もありましたが、疑問に思う部分はたくさんありました。この記事の著者が情報を意図的に取捨選択しているとは思いませんし、私が見聞きし、調べてきた情報が十分なものだとも思いませんが、この記事について慎重に見ていきたいと思います。
あまり過激な記事を書きたいとは思っていませんが、不快になられた方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。
■批評
そもそもこの記事が書かれた目的を推測すると、ミックス犬への警告だと思います。ミックス犬が悪い、ということが書かれているわけではありませんが、日本には健全なミックス犬のブリーダーはほとんどいないという旨が書かれています。(純血種のにおいても健全なブリーダーは少ないとも書かれています。)健全なブリーダーの基準は不明です。スタンダードを追求し、利益を求めず、定期的にドッグショーに出陳し、遺伝性疾患をなくす努力をしているブリーダーが健全なブリーダーとは限りません。犬種によってはそのスタンダード自体が犬の身体に負担をかけているものもあります。遺伝性疾患をなくす努力は一歩間違えれば新たな遺伝性疾患を生み出すことにつながりかねません。キャリアやアフェクテッドの個体をラインから排除することで近親交配の可能性が高まり、犬種内でマイナーだった遺伝性疾患がそのラインに広まってしまうかもしれないからです。「健全」の定義は分からない限り、この問題を議論することは難しいでしょうが、確かに利益目的でミックス犬を乱繁殖するブリーダーが健全とはとてもいえないものの、今日本にいるミックス犬のブリーダーにも目的をもってブリーディングし、健全な子犬を生み出している人はいるはずです。また、この記事内では欧米のブリーディングを手本とするように書かれています。動物愛護の世界では、日本は後進国だと言われ、ドイツのティアハイムなど欧米を見習うべきだとされることはたくさんあります。また、ミックス犬においても固定化と健全なブリーディングを目指しているブリーダーもいます。しかし、海外にも悪徳ブリーダーは少なくありませんし、珍しい毛色をラインに入れたり、巨大または矮小サイズの個体を生み出したりするブリーダーも多いです。記事内では海外のミックス犬をハイブリッド犬種と呼ぶと書いてありますが、ミックス犬もハイブリッド犬種もデザイナー犬種も意味はあまり変わりません。また、記事内で「節度がない組み合わせ」と書かれているシベリアン・ハスキー×ポメラニアン(ポンスキー)も、海外で犬種としての登録を目指して固定されようとしている犬種です。現在はアメリカン・エスキモー・ドッグを掛け合わせているようですが、これが果たして健全なブリーディングと言えるでしょうか。もちろんポンスキーのブリーダーが本当にその犬種を愛し、努力しているのは分かります。犬種として登録されるために最低3犬種を掛け合わせなければならないというAKCのルールが原因かもしれませんが、「純粋なポンスキー」にこだわらず、他の犬種を導入する柔軟さや、犬種クラブを作り、子犬を登録することも良いことだと思っています。私はポンスキーに対してブリーディングの観点から肯定的でも批判的でもありませんが、この組み合わせをも手本とすべきと書かれているのならば、それは動物愛護における極端な欧米至上主義だと思います。さらに、この記事で話題にされているのはミックス犬のみです。純血種についてはほとんど触れられていないため、純血種の個体に発生する遺伝病については一部書かれているものの、重視されているわけではありません。優性遺伝の遺伝病や、両親の犬種に普及している劣性遺伝の遺伝病がミックス犬でも純血種と同様に発症することは明らかですが、単犬種、少数犬種に発生する単因子遺伝病(コイケル麻痺(遺伝性壊死性脊髄症)やGM1ガングリオシドーシスなど)はもちろん純血種の方が発症しやすいです。ミックス犬だから遺伝子検査をしなくていいとか、ミックス犬だから遺伝病は発症しないという考えは確かに間違っていますが、ミックス犬が遺伝病になりやすいかと言われるとそういうわけではありません。おそらくここでそのように書かれているのは、プードル×ダックスフンド(ダップー)の両方の親犬種に多いPRA(進行性網膜萎縮症)や、小型犬に多く発症するパテラ、大型犬に多く発症する股関節形成不全などがあるからでしょう。プードル、チワワ、ダックスフンドなどの人気犬種の多くは遺伝性疾患が知られている上に、乱繁殖をされている可能性が高く、それらを掛け合わせたミックス犬も遺伝性疾患を受け継ぎやすいです。(もちろんこれらの犬種のブリーダーにも、遺伝性疾患を出さないようにしている人もたくさんいます。)ミックス犬の遺伝病というのは普通、その親の純血種のラインに多い遺伝病の影響をもろに受けているということなのです。ミックス犬の遺伝子検査をしないブリーダーは純血種でも遺伝子検査をしないでしょう。読者の中にはこれを「ミックス犬だから」と受け止める人がいるかもしれないのでここで補足しました。そして、「ミックス犬は遺伝子検査ができない」という記述がありますが、この部分に関しては正直に言って間違っています。ミックス犬だろうと純血種だろうと親犬の遺伝子検査によって多くの遺伝病は判明して避けられますし、子犬も両親の犬種に好発する遺伝病を検査すれば良いというだけです。
■まとめ
ミックス犬と遺伝性疾患についてのニュースの批評を紹介しました。ミックス犬はかなり議論の余地がある問題です。確かにミックス犬を繁殖することは悪徳ブリーダーにとっての王道でしょうし、利益もあります。そして購入者側の無知もミックス犬が人気である理由でしょう。また、ミックス犬にも遺伝病のリスクがあることは意外だったかもしれません。しかし、ミックス犬=悪徳ブリーダーと結論づけるのはあまりにも短絡的です。個々のブリーダーの意識と購入者側が正しい知識を身につけることで次第に不幸な犬が減ると信じています。