プードルはその人気からか毛色に関する交配のタブーなどの言説が多くあります。ところがそれはあくまで経験則に基づくもの、もしくは単なる憶測に過ぎないものと思われる部分もあります。その説を遺伝的な面から解説していきます。(2024/8/1からスタンダードが変更になり、パーティーカラー、タンポイント(ファントム)、ブリンドルが公認されました。)
■推奨される交配とタブーとされる交配(風説)
推奨される交配と一般的に言われるのは、
・同色同士
タブーとされる交配と一般的に言われるのは、
・シルバー×レッド
・シルバー×アプリコット
・シルバー×ブラウン
などです。
タブーとされる交配は多く存在するようで、場合によってはブラウンはブラウン以外と交配してはいけないと書かれている場合もあります。
■タブーとされる交配の理由(風説)
なぜタブーとされるかという理由は主に4つあります。
①身体が弱い子犬が生まれやすくなる
②ミスカラーが出る
③退色が起こりやすくなる
④ブラックポイントの色が薄い子犬が生まれる
インターネット上で見つかったものはほぼこの4つに分類されました。
■遺伝学の側面から見る
①まず、プードルに発現しうるJKC公認毛色の中で「毛色の遺伝子が原因で」有意に(もちろん調べたわけではありませんが)身体が弱い個体が発生する毛色はありません。
「毛色の遺伝子が原因で」身体が弱い可能性がある毛色は、
・マール(またはハルクイン):難聴、視覚障害、内臓疾患など(ダブルマールの場合により可能性が高まる)
・白斑遺伝子による(過度の)ホワイト:難聴
・アルビノ:視覚障害(弱視など)
です。
この場合のホワイトはプードルのいわゆる「ホワイト」と言う毛色のことではありません。
これは他の犬種においても言われていることで、プードルにも主に海外でマールやパーティーカラーの犬が増えているため、確かにプードルの交配において気を付けなければなりません。しかし、JKC公認毛色にこれらの毛色は含まれていません。そのため、JKC公認毛色の犬同士の交配で特別健康に問題がある子犬が生まれる可能性が高まるということはないでしょう。また、アルビノについてはとても確率は低いですが、アルビノの個体やその家系を繁殖に使わない、もしくは遺伝子検査を行うことによって突然変異レベルのもの以外は避けることができると考えられます。
②ミスカラーが発生するというのはそもそもどういう意味かは不明です。ミスマーキングと言う意味なのか、ファントムカラーやパーティーカラーが発生するという意味なのかによって変わります。ただし、2024年のスタンダード改正に伴い、ファントムやパーティーカラーは公認毛色となりました。ミスマーキングに関しては、単色扱いのままなのでドッグショーでは好まれません。
・ミスマーク(胸元などに小さな白斑が入ること)はホワイト以外どの色をかけても同じだと考えられます。それよりはミスマークが少ない家系の個体をかけることによってできるだけ避けられると考えられます。ホワイトがその限りではないというのは、ホワイト(パーティーカラーのホワイトではなく、単色のホワイト)の遺伝子がミスマークを作っているからではありません。ホワイトの個体はパーティーカラーやミスマークを持っていても見分けがつかないというだけのことです。ちなみにですが、パーティーカラー×単色をするとミスマーキングは起こりまやすくなります。パーティーカラーは不完全優性遺伝子だからです。もちろんパーティーカラーの度合いや、単色の犬がパーティー遺伝子を持っているかによって、子犬がホワイトが優勢のパーティーカラーになるか、有色が優勢のパーティーカラー(タキシード)になるか、ミスマーキングになるか、単色になるかは変わります。
・ファントムカラーが発生するというのはどちらかと言えば間違いではありません。例えばブラック(KBkyatatEE)×レッド(KBkyatatee)の場合、kykyatatEeつまり、ファントムカラーの犬が生まれる可能性がある(この場合25%)ということです。ですが、レッド同士の交配ではファントムカラーは生まれませんが、ブラック(KBkyatatEE)同士の交配の場合でも25%の確率で生まれます。ブラック(KBkyatatEe)×レッド(KBkyatatee)なら12.5%、ブラック(KBkyatatEe)同士なら18.75%の確率でファントムカラーが生まれます。フェオメラニン発現の毛色、つまりレッド、アプリコット、クリーム、ホワイト同士(またはこの中から二種類)の交配ならファントムカラーが生まれることはまずないでしょうが、ユーメラニン発現の毛色、つまりブラック、ブルー、シルバー、ブラウン、カフェオレ、シルバーベージュ同士(またはこの中から二種類)の交配の場合確率は低いものの、ファントムカラーが生まれる可能性はあります。しかし、ユーメラニン発現の毛色×フェオメラニン発現の毛色の交配とユーメラニン発現の毛色×ユーメラニン発現の毛色の交配でどちらがファントムカラーが生まれる確率が高いかと言われると、どちらの場合もありますが、それは遺伝子検査をしなければ確率を割り出すことはできません。ユーメラニン発現の毛色×フェオメラニン発現の毛色の交配の方がファントムカラーが生まれやすいという理由を考えるなら、ユーメラニン発現の毛色同士ならkykyatatEeという毛色を事前に親犬から外せるが、フェオメラニン発現の毛色ならkykyatateeである場合にレッドであるためにファントムカラーが生まれる確率が高まってしまうことです。しかし、このようなことをすべて考慮すればユーメラニン発現の毛色とフェオメラニン発現の毛色の交配が有意にファントムカラーを生み出しやすいということはないと思われます。どうしてもファントムカラーを生み出したくない場合、遺伝子検査をしないならフェオメラニン発現の毛色ばかりをかけるしかなさそうです。(その代わり、ユーメラニン発現の毛色も生まれません。)これはセーブルなどのその他のJKC非公認毛色の発現についても同様です。
ファントムカラーに関しては、JKCのスタンダードが改正され、公認毛色となりました。そのためこれから気にする必要は減ると思いますが、ゴーストタンなどあまり好ましくない毛色が生まれる可能性もあるので、血統を混ぜることに関しては一長一短だと思います。もし単色の繁殖にこだわりたいのであれば、そもそもファントムを血統に入れないか、遺伝子検査をする方が確実です。
・パーティーカラーが発現するということはミスマークの場合とほぼ同じですが、ホワイト以外はどの毛色の交配でも変わらないと考えられます。ホワイトの場合のみ(遺伝的に)ソリッドカラーのホワイトとパーティーカラーのホワイトの見分けがつかないというだけです。
また、パーティーカラーもスタンダード改正に伴い公認毛色になりました。こちらもミスマーキングが増えるためファントム同様血統を混ぜるのが良いかは分かりません。
③退色が起こりやすいというのは一理あるかもしれません。プードルの退色についてはまだ分かっていないこともあると考えられます。通常G遺伝子によって起こり、主にユーメラニンが退色しますがフェオメラニンもある程度退色すると言われます。
その意味で、フェオメラニンは二重に色が薄くなる(I遺伝子による希釈とG遺伝子による退色)ことが起こる可能性があります。ユーメラニン発現の毛色の場合、G遺伝子の種類によって毛色の種類が分かれています(プードルにおけるG遺伝子による毛色の種類についてはプードルの毛色とプログレッシブ・グレイングを参照してください。)が、フェオメラニン発現の毛色の場合はG遺伝子による影響がユーメラニン発現の毛色においてほど分かりやすくないからか、I遺伝子の種類によってのみ毛色の種類が分かれています。そのため、退色するフェオメラニンの毛色は登録する名前がありません。シルバー×レッドなどの交配をすると、ユーメラニン発現の毛色の子犬が生まれた場合は単にブルーやシルバーになるだけですが、フェオメラニン発現の毛色の子犬が生まれた場合はレッドだった子犬がアプリコットのようになったりして、見栄えがよくなかったり(個人的に少しくすんだ色合いになることもあるイメージです)、血統書の毛色通りにならない可能性があります。
フェオメラニン発現の毛色が退色することはドッグショーなどでは好ましくない可能性があるため、シルバーだけでなく、G遺伝子によって退色している毛色をかけて退色する遺伝子を導入してしまうのはブリーダーにとってあまり良いこととは言えないかもしれません。ただし、健康上の問題はありません。
④フェオメラニン発現の毛色において、ブラックポイントが茶色っぽい場合があります。この毛色は色素が薄いから身体が弱いと言われる場合がありますが、アルビノと言う可能性を除けば(アルビノは多くの場合判別可能です。)、それはブラウンの因子(bb)をもったeeによるフェオメラニン発現の毛色であると考えられます。そのため、健康上の問題はありません。しかし、ドッグショーなどでは不利になる可能性もあるでしょう。また、人によっては見栄えが悪いと思うかもしれません。このような毛色の発現を避けたいのであれば、遺伝子検査によってこの毛色が生まれない組み合わせにするか、ブラウンの全くいない、もしくはフェオメラニン発現の毛色の全くいない家系同士の交配にするのが良いでしょう。ちなみに隠し持っている遺伝子に関係なく、フェオメラニン発現の毛色において鼻の色が薄くなることはウィンターノーズ(冬に起こりやすいのでそう呼ばれます)の場合があります。これも健康に問題はありません。また、ウィンターノーズでなくとも(年中)鼻の色が薄い場合もあります。
■非公認毛色
プードルにはマールなどの非公認毛色もあります。もちろんこれらの毛色は非公認なので、ドッグショーに出陳したり、ショー血統の犬と交配する(ラインに導入する)ことは好まれないと思います。
ファントムやパーティーカラーは公認毛色となりましたが、劣性遺伝、または不完全優性遺伝であるため一度混ざってしまえばその血統から排除することは難しいです。
では健康問題についてはどうでしょうか。これは非公認毛色の種類によって異なると考えられます。
ファントム、パーティーカラーは公認毛色となりましたが、2024年7月までは非公認毛色でした。そのためこちらで解説しています。
・ファントム
先ほども解説した通り、ファントムとは他の犬種で言うタンポイントのあるカラーです。ブラック&タン、ブラウン&タン、シルバー&タンなどが多いです。また、この毛色は劣性遺伝です。タンポイントのある毛色が健康上の問題を持つという情報は今のところないです。
・パーティーカラー
パーティーカラーは他の犬種でもよくありますが、~&ホワイト、ホワイト&~と呼ばれる毛色です。ホワイトの割合によって遺伝的には「アイリッシュ・スポッティング(ボーダー・コリーやシェットランド・シープドッグのような、胸、首回り、四肢の先、尾の先、腹など身体の約30%の白斑)」、「パイボールド(身体の約70%の白斑)」、「エクストリーム・ホワイト(身体の90%以上の白斑)」に分かれており、プードルにおいてはアイリッシュ・スポッティング~パイボールドが多いです。ホワイトマーキングスのような小斑はパーティーカラーではなくソリッドカラーのミスマーキングとして扱われることが多いです。プードルは昔はパーティーカラーが多く存在しました。パーティーカラーの遺伝子は、種類によって健康上の問題を引き起こすことが知られています。例えば、エクストリーム・ホワイトの遺伝子を持つダルメシアンやホワイトのブル・テリアなどは高確率で難聴を患っていると言われています。プードルにおいてパイボールドやエクストリーム・ホワイトがどれだけ聴覚障害をもたらすかは分かりませんが、犬種を超えてこのような特徴がある遺伝子なので、注意する必要はあると思います。難聴のリスクを少しでも避けたければ、ホワイトの割合が少ない個体を選ぶのも手です。
・マール
マールのプードルも近年増えています。マールの遺伝子は難聴、視覚障害、内臓疾患をもたらすと先ほども述べました。マールが公認毛色である犬種もあり、シングルマールでは障害がほとんど起こらないという研究データもあることから、マールの犬が不健康であるとは一概には言えません。もしマールのプードルを飼いたい場合はきちんと子犬の健康状態を見極めるべきでしょう。また、ダブルマールの子犬はシングルマールに比べてこれらの障害を持っている可能性が高いです。もし愛犬を繁殖させることがあれば、マール同士の交配は倫理的な観点から避けるべきだと思います。
ファントム、パーティーカラー、マールともに人気が出てきている毛色です。その毛色、その犬自体に健康問題がなかったとしても、あえてレアカラー、非公認カラーを繁殖させることにはスタンダードから外れる、近親交配の必要があるなどリスクが伴います。レアカラーの犬は高値で売れる傾向があります。他の毛色、犬種でももちろんそうですが、これらの毛色の犬を迎える際は特に、本当に信頼できるブリーダーかどうかを見極めましょう。ファントム、パーティーカラーに関しても、非公認毛色だった時代から繁殖しているブリーダーの場合、ただ珍しいからという理由で繁殖しているのか、それとも何か理念があるのかを調べましょう。公認毛色になってからも、なぜそのブリーダーはこれらの毛色を繁殖させ始めたのか、新しい毛色なので近親交配などのリスクはないか、といったことを考えてください。
■まとめ
世の中でまことしやかにささやかれているプードルの毛色の交配の真偽について紹介しました。これらの言説にしたがっても非公認毛色の子犬が生まれる可能性はあります。ドッグショーに出陳する場合などにおいては気を付ける必要がある交配もありますが、遺伝子検査によって好ましくない毛色を避けることは可能です。個人的な意見になりますが、マールなど特別に注意が必要な毛色を除けば、毛色ではなく犬質とその他の遺伝性疾患や健康を第一にブリーディングすることが大切だと思います。
また、公認毛色が変わり、ファントムやパーティーカラーの繁殖がどのように規定されるかも見守りたいと思います。