フレンチ・ブルドッグの毛色と交配


フレンチ・ブルドッグの交配には暗黙のルールがあるようです。それを毛色遺伝学的な側面から紹介します。(遺伝学は必ずしも実際の交配において当てはまるとは限りません。まだ解明されていないこともある上に、突然変異やマール遺伝子におけるモザイクなどの現象が起こることがあるためです。ここでは見聞きする情報は含めますが、ブリーディングの実践経験的な話を交えずに紹介するため、ここで紹介することがすべての場合において正しいとは限りません。あくまで個人的な見解の一つとしてお読みください。また、現時点で判明している出来るだけ事実に忠実な情報を提供するようにはしていますが、科学的にまだ解明されていないこともあるためすべての情報が正しいとは限らないことをご了承ください。)

■フレンチ・ブルドッグのJKC公認毛色

フレンチ・ブルドッグのJKC公認毛色は大きく分けてブリンドル、フォーン、パイド、フォーン&ホワイトです。ブリンドルはブラックブリンドルからタイガーブリンドルまで種類は様々です。フォーンやフォーン&ホワイトには様々な色合いが含まれ、ブラックマスクがある場合とない場合とがあります。

一般的に言われる区分はブリンドル、パイド、フォーン、クリームの4種類です。ここにハニーパイド(フォーンパイド)などが加わる場合があります。

遺伝学的に分けるなら後者(一般的な区分)の方が分かりやすいですが、さらに詳しく分けると、次のようになります。

・ブリンドル

・パイド(ブリンドル&ホワイト)

出典:Wikimedia Commons File:Bou.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bou.jpg

・フォーン

出典:Wikimedia Commons File:French bulldog puppy fawn.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:French_bulldog_puppy_fawn.jpg

・ハニーパイド(フォーン&ホワイト)

出典:Wikimedia Commons File:Milton the Dog (original).jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Milton_the_Dog_(original).jpg

・クリーム

・クリームパイド(クリーム&ホワイト)

ここではフォーンもクリームも色合いは様々で、フォーンはブラックマスクがあり、クリームはブラックマスクがない(eeレッド)毛色を表します。

日本に多いのはブリンドルですが、ブリーダーサイトなどによると、ブリンドル以外の毛色はブリンドルに比べて価格が高くなる傾向にあります。

■暗黙のルール

日本においてよく言われるのは少なくとも片親はブリンドルにする必要があるというものです。血統書などで一度でもブリンドル以外の毛色同士があれば良くないという意見は少なそうですが、あまりにもブリンドルを入れない交配をしていると良くないと言われることがあります。

■遺伝学的な側面から見る

フレンチ・ブルドッグのパイドなどの大きなホワイトの斑が入る個体は難聴の可能性が高まると言うのはよく知れた話です。これはフレンチ・ブルドッグに限らず、ダルメシアンやブル・テリアなど身体の大部分をホワイトが占める個体、見た目は有色ですがティッキングやローンによるものである個体は難聴の可能性が高まります。また、青い目になりやすいとも言われます。しかし、これは日本スピッツやウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなどのような、フェオメラニン発現の毛色(フレンチ・ブルドッグではフォーンやクリーム)が薄まった毛色には当てはまりません。あくまでもS遺伝子による白斑の場合を指します。

ホワイトの面積が大きいパイド

また、同じパイドでも、ホワイトの面積の大きさには違いがあります。有色の部分がほとんどない場合などはより慎重に見極める必要があります。ホワイトの面積が小さい場合は全くない場合と比べて有意差があるかは分かりませんが、他の犬種でもよくある毛色であり、小さなホワイトの斑で難聴が起こるということは一般的ではなさそうです。

S遺伝子は不完全優性遺伝なので、「タキシード」や「ソックス」などと呼ばれるブリンドルの模様はパイドのキャリアの可能性が高いです。(ミスカラーの場合もあります。)

また、クリームが弱い、と言われることに関しては、それ自体の明確な根拠を示す研究などは見つけることができませんでした。また、他の多くの犬種ではクリームが弱い、などという言説はほとんどなく、一般人が見てクリームの個体が極端に不健康または短命とは思えないと感じています。

これはフレンチ・ブルドッグに限らず毛色が薄い犬に言えることですが、白い犬は皮膚に当たる日光の量が多く、メラニンが少なければ日焼けしやすいとは言われています。それがどの程度身体に影響を与えるかを示した論文は今のところ見つけられていません。また、クリームなのかS遺伝子によるホワイトなのかの違いもあるかもしれません。

また、MC1R遺伝子がマウスでのアトピー性皮膚炎の炎症反応を阻害するという研究があり、エクステンション遺伝子によるイエロー(フレンチ・ブルドッグにおけるクリーム)ではMC1R遺伝子の変異があります。また、β-ディフェンシン103という遺伝子変異は優性ブラック(フレンチ・ブルドッグには存在しない)のコートを作り、同時にアトピー性皮膚炎と負の相関があるという研究もありますが、相関はなかったとする研究もあり、交絡の可能性などを考えるとこれにはまだ議論の余地があります。

飼い主が報告したアレルギー/アトピー性皮膚症状、およびフィンランドの犬の個体群の獣医師によって確認された犬のアトピー性皮膚炎の環境および表現型に関連する危険因子-PMC

ただ、これは薄い毛色同士を交配したからといって、世代を経るにつれて増すものではありません。もちろんこの可能性を避けるためにクリームを交配に使わない、クリームをできる限り生み出さない、という方針もありだと思いますが、クリーム同士だからダメ、ブリンドルの子供のクリームだから大丈夫、という違いではないです。

「少なくとも片親をブリンドルにする」ということのメリットは何なのでしょうか。色素が濃くなるというのがそのメリットのようですが、遺伝学的に見れば突然変異が起こったり、クリームと思っていた犬が実はアルビノだった、という場合を除き、クリームやフォーンやパイドばかりを掛け合わせていて色素が薄くなるということはありません。フレンチ・ブルドッグにおける、ユーメラニンの色素が薄い(鼻や肉球などのブラックポイントの色が薄い)犬は、例えばクリーム同士を交配するからではなく、ユーメラニンの希釈遺伝子を持った犬(ブルー、イザベラ、ライラック、ニューシェードイザベラなど)を交配するからです。もちろんブリンドルを交配すればブリンドルが生まれる可能性が高くなり、色の濃い(黒っぽい)子犬が生まれやすくなるのは確かですが、フォーンやクリームなどブリンドル以外の毛色の犬が、その毛色であるからという理由だけで、先ほど述べた大きすぎる白斑による難聴や青い目になること以外に世代を経るにつれてリスクが高まるということは間違いです。どちらかと言えば、パイドやハニーパイド、クリームパイドの親犬に障害がないか調べたり、子犬に難聴や青い目が出た場合の親犬の掛け合わせを避けたりする方が理にかなっているでしょう。また、あまりにもホワイトの斑が大きい場合、ホワイトの斑が大きいパイドやパイドキャリアと掛け合わせると同じような柄の子犬が生まれることがあるので、避けると難聴などの可能性を減らせると考えられます。ただし、ホワイトの多い個体を選択して交配しない限り、何代も続けたところで身体が真っ白の子犬が生まれたりすることはないでしょう。そのため、普通のパイドであれば数代交配したところで毛色だけによる問題が起こるとは考えにくいです。(また、身体のほぼ全体がホワイトであっても必ずしも難聴や青い目であるわけではありません。)

しかし、この「少なくとも片親をブリンドルにする」というルールにも一理あります。それは、近親交配を防げる可能性が高いからです。先ほど述べた通り、日本に多いフレンチ・ブルドッグの毛色はブリンドルです。一方で、その他の毛色は人気があり高く売れるため、ブリーダーによっては意図的に産ませたい毛色でもあります。そのため、あえてブリンドルを掛けないことによってブリンドル以外の毛色が生まれる可能性を高めることがあります。すると、元々少ない毛色であればあるほど近親交配になる確率が上がり、そのラインにキャリアの多かった遺伝病を発現したり、身体が弱くなったりすることがあります。このように、色素が濃いか薄いかだけで単純に身体が強いか弱いかを判断することはできないと考えられますが、近親交配を防ぐ目的ではこのルールはあながち間違いではないでしょう。

■まとめ

フレンチ・ブルドッグの毛色と交配について紹介しました。遺伝的には裏付けしにくい暗黙のルールでしたが、逆に近親交配を防ぐことができるというのは意外な利点でしたね。いずれにしても近親交配を防ぎ、遺伝病の検査や健康診断をして犬質と健康にこだわった繁殖がされることを願います。