ノルウェー原産の嗅覚ハウンド、ドゥンカーには他の嗅覚ハウンドにはない独特の毛色が存在します。その毛色の由来の謎を考察します。
■ドゥンケルとは
ドゥンケル(”Dunker”)は「ノルウェージャン・ハウンド」「ノルウェージャン・ドゥンケルフント」「ドゥンカー」などとも呼ばれるノルウェー原産のウサギ狩り用の猟犬種です。キツネやオオヤマネコの狩りにも使われることがあります。ノルウェーの気候で猟をするのに適していますが、ギリシャなどの地中海の気候でも問題なく猟ができるなど適応力もあるそうです。FCI公認犬種(JKCは非公認)ですが、原産国とスウェーデンなど以外ではあまり知られておらず、珍しい犬種です。
■ドゥンケルの毛色
ドゥンケルの公認毛色は主に2種類です。JKC非公認犬種なので、英語ですがFCIのスタンダードから引用します。(UKCもほとんど同じスタンダードです。)
Diluted black with tan-markings or blue marbled (merle) with pale tan-markings and white markings. Jet black with warm tan-markings is less desirable. 50% or more white is undesirable. White markings that reach out on the shoulders, on the underside of the belly and on legs (socks) is accepted as a correct marking.
fci.be/Nomenclature/Standards/203g06-en.pdf
訳:希釈されたブラックにタンマーキングまたはブルーの斑(マール)に淡いタンマーキングとホワイトマーキング。ジェットブラックに暖色のタンマーキングはあまり望ましくない。50%以上のホワイトは望ましくない。肩、腹、四肢のホワイトマーキングは正しいマーキングとして認められている。
スタンダードによると、ブラック&タン ホワイトとブルーマール&タン ホワイトが公認であることが分かります。このスタンダードには書かれていませんが、ほとんどがハウンドトライカラー(またはそのマール)です。クリーピングタンは比較的多く存在しますが、クラシックトライカラーはとても珍しいです。クラシックトライカラーがショーにおいて欠点になるかは不明です。ブラック&ホワイト タンは希釈されたブラックと書いてありますが、ブルーではなく通常のブラックです。サドルタンやクリーピングタンの犬において、ブラックとタンの境界が薄いブラックになることはよくあります。また、ロシアン・ハウンドなどにおいて多いですが、サドルタンでもサドルの部分が薄くなり、タンが「透けて」見えるような毛色もあります。このスタンダードにおける「希釈されたブラック」とは、このような毛色のことを指していると考えらえれます。スタンダードではブルーマールのみに「淡いタンマーキング」と書かれていますが、ドゥンケルにおけるタンマーキングは基本的に薄い色です。
■ドゥンケルの歴史
ドゥンケルの名前の由来は、作出者のヴィルヘルム・コンラッド・ドゥンケルです。ヴィルヘルム・ドゥンケルは”captain”と書かれていますので、おそらく軍人で位も持っていたのでしょう。ただ、captainと呼ばれる中では低い位だったそうです。そのため、本人の写真はなく、ドゥンケルの繁殖の記録もほとんど残っていません。
ヴィルヘルム・ドゥンケルの名前が犬種名の由来となっていることから、彼がドゥンケルの繁殖に大きく関わったことは確かですが、犬種図鑑やwikipediaをはじめとする様々なサイトを見ても、その歴史が詳しく書かれているものはほとんどありません。
ドゥンケルはブルーマールが多いですが、現在他の嗅覚ハウンドにおいては見られないこの毛色はどこから来たのでしょうか。
多くの文献にあるのは、「ロシアン・ハーレクイン・ハウンド」が交配に使われたと言うことです。ノルウェーとロシアは地理的にも近く、また似たような気候で狩猟を行う能力を持つ犬種の血を導入することはドゥンケルの血統にとってもメリットがあったかもしれません。また、祖先ではないですが、ドゥンケルとヒューゲン・ハウンドが祖先を共有しているということが書かれているものもあります。
■ドゥンケルの祖先となった「アラーム」
ドゥンケルが19歳の時に、「アラーム」という名前の雄犬を飼い始めました。アラームはブルーマールの毛色で、その兄弟たちもブルーマールでした。アラームの父犬は、「Hvide Musik」という名前で、ノルウェーのジェイコブ・クレフティング少佐(Jacob Krefting)によって飼われていました。Hvide Musikは「White Music(白い音楽)」という意味で、その名の通りホワイトの毛色でした。おそらくダブルマールだったのではないかと考えられます。その証拠に、アラームの兄弟もブルーマールの毛色を持っていました。しかし、クレフティング少佐はHvide Musikをジプシーから手に入れたとされており、Hvide Musikの出自は全く分からないままです。Hvide Musikが真の猟犬であれば、他のスカンジナビア半島の猟犬と同じように、ドイツかオーストリアで生まれた可能性があります。
Hvide Musikは若くしてオオカミに殺されてしまいましたが、アラームは1838年まで生きました。ドゥンケルはアラームを繁殖にも使い、アラームの子供たちにもブルーマールは引き継がれました。ドゥンケルはアラームとその子孫を元にドゥンケルの繁殖を行ったと考えられていますが、アラームの他に使われた犬の記録は残っていません。
専門家によると、ドゥンケルはイングリッシュ・フォックスハウンド、ジャーマン・ハウンド、スイス・ハウンドを使ったと言う説や、ロシアン・ハウンドを使ったと言う説があります。
■まとめ
ドゥンケルの歴史について毛色と言う視点から解説しました。ドゥンケルは記録があまり残っておらず、歴史にも諸説ありますが、特徴的な毛色を持っているために起源をたどることができたことはとても興味深いことですね。
参考文献(全て2023/12/26参照)